第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
「……そん、な、」
絶望の壁。
またも、幸せを阻むのか。
彼女の唇から悲嘆が漏れた。色鮮やかなルージュ。目の醒めるような赤。走ることを止めたピンヒールと、同じ色。
「はーい、捕まえた」
佐久早の声が淡々と空気を揺らした。
絶望に打ちひしがれる彼女は壁のほうを向いたまま。共に駆けていた男たちも沈黙して俯いている。
「これで女は完了、あとは京治だな」
不気味なまでに落ちついた台詞に混ざって、カチリと金属音。それは、拳銃の撃鉄を起こす音だった。
ひたり
ひたり
眼を血走らせている部下を退けて、佐久早が先頭に躍り出る。
「おい女、京治はどこだ、答えろ」
銃口を向けられる気配。
答えなければ殺される。
前方は壁、背後には敵。
絶体絶命の窮地に立たされた彼女は、観念したかのように両手を挙げてみせて──……
「京治? さあね、今頃空じゃない?」
──嗤った。
佐久早が疑問の声を漏らす暇もなく、嘲笑を携えた彼女が振り返る。
その、顔面。
猫のような瞳。
背格好や髪型はたしかに彼女そっくりだが、彼女じゃない。カオリじゃない。