第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
顔のひしゃげたクロネコが第二ターミナルに飛び込んだ。
利用客のいない夜の空港。
本日分の離陸便がすべて終了している出発ロビーに、複数の足音が響く。
「待てやコラァ!」
「ブッ殺してやる!」
血気盛んな部下を数名、自身の盾として従え走るのは佐久早聖臣だった。
だから殺しちゃ駄目だって。
ぼそりと落ちた佐久早の言葉は誰の耳にも届かない。
縦に長く長く、どこまでも伸びるロビーを駆ける。駆ける。駆ける。
捕まってなるものかと逃げる四人の男女。男たちに守られ走る紅一点は、ピンヒールを履いているというのに物凄く足が速かった。
徐々に見えてくる搭乗口。
無論ゲートは閉じられているが、速度を緩める者は一人とていない。
そのままのスピードでゲートに突っ込んで、踏切って、跳躍。
本来であればチケットがないと通れないそこを文字通り跳び越えて、着地した先はボーディング・ブリッジだ。
ターミナルと飛行機とを繋ぐ橋。
ここを渡りきればあとは空へ逃げるだけ、──そのはずなのに。
未来への道が、絶たれている。
飛行機が到着していないのだ。計画によれば、既に赤葦が乗り込んで待っているはずの。
ブリッジの最奥。
幸せへと続いているはずだった道が遮断されている。無情な行き止まり。
もう、これ以上進めない。