第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
【足止めは成功】
【でも、バレたみたいだよ】
【鼬が動きだした】
薄暗がりの車内で灯るトーク画面に、数件のメッセージが表示されている。
鼬、──やっぱりサクサか。
トラックの助手席に腰かける男はぼそりと呟やき、それから唇を真一文字に結んだ。
佐久早聖臣。
組解体により雲隠れを余儀なくされたウシワカの腹心にして、白鳥沢組残党の筆頭だ。
赤葦の出所と、その最愛の所在。
それらの情報を掴んだ牛島から「報復せよ」との命を受けた彼は、虎視眈々とその機会を伺っていた。
赤葦と、カオリ。
その両者をひと息に略取する絶好のチャンスを、──今日、この時を、今か今かと待ち続けていたのだ。
「鼬が追ってくるってよ」
助手席の男がスマホにロックをかけながら言った。
すると、今度は運転席にてハンドルを握る男が短かく答える。
「来る、じゃない、もう来てる」
その緊迫した声音。
サイドミラーに素早い視線を走らせると、なるほど確かに、後方三台目に見えるワンボックスカーは普通じゃない。
フロントガラスに至るまで遮光フィルムが貼られたフルスモーク。漆黒の影。
追手が、既に背後まで迫っている。