第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
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国内最大規模を誇る歓楽街。
多くの風俗店が乱立する町の代名詞、アーチ型の看板からまっすぐに伸びたメインストリートが騒然としている。
その騒ぎの中心にいる青年。
ミルクティーに蜂蜜が混ざったようなブロンドを携えた彼は、月島蛍。最近パリコレに進出を果たした人気モデルだ。
整った容姿と過激すぎる毒舌で知名度を欲しいままにした月島は、昼夜メディアに引っぱりだこだった。
俳優への転業も噂される今日この頃。
そんな月島がなんの変装もせずに繁華街を訪れたのだから、町はちょっとしたパニックである。
「っえ、ちょ、あれKEIじゃない?!」
「やばーい! 写メ!写メ!」
「ねえねえ、声掛けてみようよ!」
「私サインがいい! あ、握手も!」
「うわ、何、なんの騒ぎ?」
「なんか芸能人がいるみたいよ」
「えっ! 誰、アイドル?」
人だかりが人だかりを呼び、さらに騒ぎが膨れあがる。
国道に面したアーチゲートの周辺を埋めつくすのは人、人、人。そのうちの九割は女性だが。
ファンと野次馬とで人口過密になったこの町の入口で、月島は、とある人物に視線を注いでいた。
鷲匠会系井闥山組幹部
──佐久早聖臣。
新装開店の旗が掲げられたパチンコ店の前。路駐していた黒塗りのベンツ。
通りを埋めつくす群衆のせいで愛車を発進させることが出来なくなってしまった彼は、歯噛みして月島を睨みつける。
「……陽動作戦、かよ、小生意気な」
悔しげに漏らした彼の視界が、国道を走り抜けていく一台のトラックを捕らえた。クロネコのロゴが躍るそれ。
その運転席に見覚えのある横顔を見た佐久早は、乱暴に人波を掻き分けはじめる。耳に当てたスマホに向かってぶつけるのは、静かな怒り。
「裏通りに車回せ、今すぐにだ……!」
自身の車を捨てて裏通りへ消えていく佐久早の背中を見やって、今度は月島がスマホを取りだした。