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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)



「うん、わかった、もう泣かない」

「んー、いい子! 偉いぞカオリ!」

「わ、ちょ、髪ぐしゃぐしゃんなる」


 豪快に頭をわしゃわしゃしてくる光太郎から逃れようとした、──そのとき。

 トラックの荷台と運転席を繋いでいる小窓が開いて、花巻くんがひょこりと顔を覗かせた。その隣に見えるのは岩泉さんの横顔だ。


「そろそろ時間だぜ、お二人さん」

「揺れるからしっかり掴まっとけ」


 それぞれに告げた彼らもまた、光太郎と揃いの作業服を纏っている。目元を隠すために用意されたキャップ帽。

 浅めに帽子を被っていた花巻くんが、気合いを入れるようにして鍔の位置を深くした。

 ああ、いよいよなのだ。
 運命の日が始まろうとしている。

 どくん
 どくん
 どくん

 全身が波打つくらいの拍動。
 国道を過ぎていく車たちの喧騒が少しずつ、少しずつ、意識の外へ押しだされていって。



「行くぞ、出発だ」



 助手席に腰掛ける岩泉さんが命じて、花巻くんがアクセルを踏んだ。

 閉じられる小窓。
 ゴトン、と揺れる荷台。

 光太郎があぐらを掻いている傍らで小さく蹲って、私は──……


(今度こそ、幸せを)


 まだ空っぽの掌を、強く、強く、握りしめるのであった。

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