第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
仕切りなおして、現在。
私はピンクオウルに別れを告げ、とある車両の荷台にて待機をしていた。
運送業者を偽装したトラック。
共に乗りこんだのは岩泉さん率いる第一班の面々だ。
「んな泣くなって、な?」
大きな手が濡れた頬を拭う。
ちょっと乱暴で、強引で、でもすごく優しい。光太郎の手だ。ゴツゴツしてて骨張ってる。
初めて彼と出会ったのが、あのお店だった。私たちの古巣。桃色の梟が舞う。
恐らく、もう二度と戻ってはこられないだろう。
良きも悪しきも私の全てだった。心寄せる場所だった。──宿木、だった。
でも、これで最後なのだ。
この町とも、もうお別れ。
めそめそ泣いている場合じゃないのは分かっているのだけれど、溢れる涙は止めどなく。
ほろろと落ちるそれが光太郎の衣服を濃青に染めていく。
「なにもこれが最後だって決まったワケじゃねえだろ? ポジティブイズジャスティス!だぞカオリ!」
おどけたようにそう告げる彼は、いつもの着崩したスーツ姿ではなくて、青い作業服にその身を包んでいた。
服とおなじ色のキャップ帽。
目深に下げられた鍔が落とす影。その奥で燃ゆる黄金は、どこまでもまっすぐに未来を見据えているようだった。
「だから今は、生きることだけ考えろ」
力強い彼の言葉。
すごく、頼もしくて。
甘えたでワガママで子供みたいなことばかり言ってた光太郎。いつの間にか大人になったんだね。それだけ、時が経ったんだ。
──私もいい加減、成長しなきゃ。