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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)



 カオリ──

 ひと際大きな声で名を呼ばれて、カオリは条件反射的に顔を上げた。そしてそのまま、瞬きすらできずに愕然とする。

 頬を打たれたような錯覚。
 胸を、抉られるような痛み。



「……こ、たろ、……ごめ、」



 木兎が、泣いていたのだ。

 感情が昂ぶりすぎてコントロールできなくなってしまったらしい彼。ぼろぼろと眦から滴をこぼして泣いている。

 そんな彼を咄嗟に抱きしめようとして、でも、とカオリは踏み止まった。

 そうじゃない。
 私が、今、すべきこと。それは光太郎を慰めることじゃない。彼女は自身に言い聞かせる。

 言わなければならないこと。
 伝えなければならないこと。

 たくさんある、なのに。



「──……ごめんなさい。私、逃げてた。自分のせいで誰かが傷つくのはもういやで、怖くて、覚悟を決められないでいた。でも、……もうおしまい。逃げるのは、もうやめる」



 ぱたた、ぱたた。

 握りしめた手に落ちていく大粒は数知れず。だが、小刻みに揺れていた脆弱はもう存在しない。


「私、会いたい、……っ京治さんに、会いたい。だから、だから私に力を貸してください……っお願、します……!」


 全てを言いきって髪を垂らした彼女。

 その華奢な身体を包みこむ光。
 息が出来ぬほどの抱擁が、苦しくて。


「よく言った! うんうん、それでこそ俺のカオリだ! 偉いなあお前、よしよし、もう泣くな!」

「っや、ちょ、苦し、光太、」

「何があっても守ってやっからな! 泥船に乗ったつもりでいろよ!」


 眩く笑んでみせる彼は太陽。
 絶望の夜さえ照らす、道標。

 宿木に刻まれた絆の証。


「それを言うなら大船、でしょ」

「んん? そうだっけ?」


 優しさと愛で溢れるプレイルーム。

 捧げる祈り。
 それは果たして叶うのか。


「……ふふ、もう、相変わらずばかなんだから」


 あ、──笑った。
 誰かがそう囁いた。






【without u】fin.
迫る決戦の日、そして──
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