第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
私は──……
その先に続ける言葉が見つからないカオリは、視線を右左に彷徨わせて俯いてしまった。
ぎゅ、と噛んだ唇。
痩せた手は指先が白くなるほど握り締められている。そこへぱたぱたと降りそそぐ大粒。
「泣いてちゃ分かんねえだろ」
「……、……っ」
「お前の言葉で、ちゃんと言え」
カオリの涙に耐えられず再度立ち上がろうとした岩泉を、今度は及川が視線で制した。
言わせてあげようよ、ね。
彼の瞳がそう訴えている。
しかし当のカオリは何も言うことができず、その身を震わせるだけ。彼女が葛藤の渦中にいることは周知の事実だが、それでは駄目なのだ。
これから起ころうとしていること。
これから起こそうとしていること。
それは謂わば死と隣合わせ。
なにせ相手はあの白鳥沢組だ。
実質上の解体により弱体化してはいるものの、下手をすればこの件に関わった全員が殺される。
骨すら残さず、この世から、消滅させられる。
もし仮に、作戦が無事成功したとして。逃亡先にある安全が100%だとは言いきれないし、一生逃げ続けなければならないのかもしれない。
だからこそ。
木兎は言わなければならなかった。
彼女本人から聞く必要があった。
駄目なのだ。
生半可な覚悟では迷いが生じるから。そしてその迷いは、カオリ自身の死に直結してしまうから。
「言え、カオリ、私のために死んでくれって強請るぐれえの覚悟見せろ」
「……っ、……、」
「お前の京治に対する愛ってそんなもんかよ。何よりもあいつのことを愛してんじゃねえのかよ。黙ってないで何とか言え、カオリ!」