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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)



 私は──……

 その先に続ける言葉が見つからないカオリは、視線を右左に彷徨わせて俯いてしまった。

 ぎゅ、と噛んだ唇。
 痩せた手は指先が白くなるほど握り締められている。そこへぱたぱたと降りそそぐ大粒。


「泣いてちゃ分かんねえだろ」

「……、……っ」

「お前の言葉で、ちゃんと言え」


 カオリの涙に耐えられず再度立ち上がろうとした岩泉を、今度は及川が視線で制した。

 言わせてあげようよ、ね。
 彼の瞳がそう訴えている。

 しかし当のカオリは何も言うことができず、その身を震わせるだけ。彼女が葛藤の渦中にいることは周知の事実だが、それでは駄目なのだ。

 これから起ころうとしていること。
 これから起こそうとしていること。

 それは謂わば死と隣合わせ。

 なにせ相手はあの白鳥沢組だ。
 実質上の解体により弱体化してはいるものの、下手をすればこの件に関わった全員が殺される。

 骨すら残さず、この世から、消滅させられる。

 もし仮に、作戦が無事成功したとして。逃亡先にある安全が100%だとは言いきれないし、一生逃げ続けなければならないのかもしれない。

 だからこそ。

 木兎は言わなければならなかった。
 彼女本人から聞く必要があった。

 駄目なのだ。
 生半可な覚悟では迷いが生じるから。そしてその迷いは、カオリ自身の死に直結してしまうから。


「言え、カオリ、私のために死んでくれって強請るぐれえの覚悟見せろ」

「……っ、……、」

「お前の京治に対する愛ってそんなもんかよ。何よりもあいつのことを愛してんじゃねえのかよ。黙ってないで何とか言え、カオリ!」


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