第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
その責め立てるような口調に「おい、木兎」と身を乗りだした岩泉。彼を制止するのは黒尾だった。
言わせてやってくれ、頼む。
極々小さな声でそう告げた黒尾の脳裏には、在りし日の木兎とカオリの姿が浮かんでいる。
『なによばか! 光太郎のばか!』
『はああ? 俺はバカじゃありませんー! バカって言うほうがバカなんだよカオリのバーカ!』
『なんですってえ!?』
彼らはいつだってそう。
巡回中に店で会うときも、国道沿いにある激安の殿堂で出くわしたときも、夜勤明けの食堂でだって。
彼らはいつも小競合いをしていた。
ガン飛ばし合って、互いを睨んで。
なのに毎日一緒にいて、働いて、気付けば仲直りして笑い合ってる。
その姿はまるで本当の兄妹のようで。家族のようで。黒尾は、そんな彼らを微笑ましく思っていた。
いつの日も、どんなときも、一番近くでカオリを見守ってきた木兎だからこそ募る想いがあるのだろう。
だったら、言わせてやりたい。
とことんまで腹を割らせてやりたい。これが、最後かもしれないのだから。
それが黒尾の想いだった。
「お前、自分のせいで俺たちが傷ついたらどうしよう、とか下らねえこと考えてんだろ。だからそんだけ怯えてる。覚悟決まってねえ証拠じゃんか」
「……そん、な、っ私は、」