第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
孤爪による【作戦】の説明が為されたあと。プレイルームを満たすのは再びの静寂だった。
「……海外、かあ」
ぽそりと呟いたカオリ。
スケールが大きくて驚いちゃった。
おどけたような声音で言ってみせてはいるが、唇は小刻みに震えていて。
その震えを誤魔化そうとしたのか、彼女はやおら立ち上がってパソコンに手をかけた。
店のスタッフルームから拝借した年代物。切電されたビデオ通話。
灯った液晶は、特徴的なライトブルーに塗りつぶされている。
カオリの指がすすと動いて、マウスカーソルが閉じるボタンに到達した。
「──……カオリ、お前さ、俺たちに流されてるだけじゃねえの?」
それは、あまりにも唐突な。
人ひとり入るのがやっとのシャワーボックス。そのスライドドアに背を預けたまま、木兎が鋭い低音を響かせた。
閉じかけの通話画面。
静止した、カオリの指。
「……、……え?」
彼女はそう答えるだけで精一杯。
震えているのは今や唇だけではない。
かちかちと音を立てるのは、マウスパッドに触れた彼女のネイルだろうか。
カオリの顔に明らかな動揺が浮かぶ。
「守るよ、俺は。自分が死んででもお前を守ってやりてえ。京治くんにくれてやんのは悔しいけど、それでも。お前が幸せになれんならそれでいいよ」
木兎の声に宿る熱。
静かに燃ゆる双眸の黄金が、カオリを捕らえて離さない。
「けどさ、お前はどうなの? 俺たちに守られる覚悟あんの? お前の口から一回でも出たか、幸せになりてえ、って言葉。出てねえだろ」