第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
「そんじゃ、始めるか」
黒尾のひと声で静寂が降りる。
カオリのために準備された部屋。
SM仕様になっているプレイルームは、異様な光景に包まれていた。
壁際の簡易ベッドに体育座りをしている女がひとり。そんな彼女を挟むように腰掛けているのは黒尾と岩泉だ。
この部屋の清掃をしていた木兎は小さなシャワーボックスの前にあぐらを掻き、及川はドア前を陣取っている。
他三名は、というと。
彼らはそれぞれ見張り番を任されていた。天童はSMルーム前、花巻は待合フロア、店が入っている雑居ビルの入口は松川が守っている。
「研磨、頼む」
黒尾が声をかけた先。
普段は三角木馬が鎮座しているはずの場所に、現在は一台のノートパソコンが置かれていた。
薄平な画面のなか、小麦色のブロンドを揺らして頷く少年は孤爪研磨だ。その隣には月島蛍の姿も見える。
彼らもまた、この町でカオリに出会った人間であり、そして彼女を守らんとする【壁】の一員だった。
今宵、顔を揃えた男たち。
カオリを中心として集うた者々の関係はどこまでもあやふやで、爛れていて、しかし何よりも強い絆で結ばれている。
それは、愛だ。
カオリを守りたい。そのために身を呈している仲間を守りたい。救ってあげたい。幸せにしてやりたい。
求めるモノは個々で違うけれど、どの根底にも愛がある。
愛しているから守りたい。救いたい。幸せに導いてやりたい。
胸を焦がす尊さ。
他者を想う温もり。
愛のために、彼らは戦うのだ。