第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
僅かな間ではあったが、同じ高級ソープ店の従業員として働いていた二人。
天童とカオリの視線がぶつかって、数秒。奇妙な沈黙が流れていく。
「皆さんを守る。組の内情を密告する。それが俺のオシゴト。お約束します、──……ただ、ひとつ条件が」
条件?
誰かが小さく漏らした。
ある者は身構え、ある者は神経を尖らせ、またある者は一抹の不安を抱く。天童のいう条件とは一体何なのか。
「俺はね、組織だとか忠誠だとか、そんなことはどーーでもいいんデスよお。求めてるものは、……ひとつだけ」
緊張の一瞬。
その、直後。
「俺のトモダチになってくれますか?」
……え?
……は?
……ん?
その場にいる全員がぽかんと口を開ける。開けて、そのまま塞がらないといった様子で呆然とした。
カオリをジッと見つめたままの天童が放ったのは、なんとも拍子抜けな。
友達になりたい。
そうねだる天童は「……ダメ?」と悲しげな表情で言葉を足した。パチンと弾かれるカオリの意識。
「っう、ううん、だめじゃないよ」
「! ホント?」
「うん、本当。よろしくね天童くん」
カオリが快く条件を受けいれた刹那。
パアア!と表情を晴れさせた天童が、勢いよく彼女に駆け寄った。反射的に臨戦態勢をとるのは黒尾と岩泉だ。
しかし、当の本人はそんな彼らの心配など露知らず。
「うっれしいなー、出てこい俺のトモダチ! なんちゃって!」
「っわ、ちょ、ブンブンしすぎ」
「カオリはアイス好きですか? 買ってくるから一緒に食べませんか? 駅ビルにいいお店ができたんですよお」
カオリの両手を握って上下に揺らす天童は、心底楽しげに声を弾ませ続けるのであった。