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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)



 ここにいるはずのない彼が、何故。

 唖然とするカオリの声なき疑問に答えたのは【彼】だった。過ぎし日のこと、天童と共謀して彼女を誘拐した及川徹である。


「大丈夫、覚ちゃんは味方だよ」


 彼は真剣な面持ちで言う。カオリのことを真っ直ぐに見据えて、大丈夫、と。

 そう言うのだ。

 そこに岩泉の面影を見たカオリは、口を噤んだままこくりと頷いて、及川の言葉の続きを待った。


「いわゆる内通者、ってやつ。敵の動きを知ってたほうが色々と有利でしょ?」

「天童は腕っぷしも強えしな」


 及川に継いで話すのは岩泉だ。

 カオリが普段から愛飲しているミネラルウォーターを彼女に手渡してから、彼はさらに言葉を紡いでいく。


「一番街にはまだまだ鷲匠んとこの残党が息を潜めてる。俺たちがここに来るまでにも何人か知った顔を見かけたぐれえだ」

「そこで、俺の出番なワケですよお」


 喜々として声帯を震わせる彼。

 天童覚は、笑む。
 サムズアップした親指で、自身の喉元を掻っ切る仕草をしてみせて。


「敵を音もなく狩るのが得意なのは、フクロウさんだけじゃないですからねえ」


 その爛々とした目玉。

 夏休みの計画を立てる少年のようにも、惨劇の算段を立てる罪人のようにも見えるそれが捕らえるのは、カオリの瞳だった。

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