第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
ビ──ッ
突如として響いた無機質。
扉を開けっぱなしにしないでくれと、エレベーターが不機嫌な音で警告する。
それを合図にしてピンクオウル店内へと流れこんできた人影のなかに、カオリは岩泉の姿を見つけた。見慣れた顔にほっと胸を撫でおろす彼女。
これからここで過ごす一週間に必要な着替えや日用品。女性向けの旅行用コスメセット。
彼女を匿うための荷物で両手が塞がっている彼もまた、及川の背中ごしにカオリを見つけて小さく安堵の息をついた。
花巻貴大と、松川一静と。
及川や岩泉のあとに続いて姿をみせた彼らと会釈を交わすカオリ。
しかし、その時だ。
ぞわりと違和感。
奇抜な頭髪の赤。
ぎょろりと動くのは、二つの目玉で。
「──……ど、して、あなたがここに」
及川率いる元クラブキャッスル御一行。揃いも揃って高身長の彼らに紛れていたもうひとつの人影。
それは、天敵。
警察官に出くわしてしまったときのそれなど比べモノにならない。
己の【命】に危険が迫っているのだと、本能が警鐘を鳴らす。
「はあい皆さん、お招きどうもデス」
妙な語調で言葉を紡ぐ男。
白鳥沢組構成員、──天童覚は、にたりと口角を釣りあげてこう言った。
「仲良くしてネ」