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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)



 突然の再会に絶句して、カオリはその身を凍らせる。

 岩泉の元へ大量の豆腐が送られてきていたこと。それらが及川の償いの証であったこと。彼らが和解したこと。

 彼女はすべて知っていた。
 黒尾から事前に説明を受けていた。

 しかし、身体に滲みついた恐怖はそんなに簡単に消えやしない。

 消えないのだ。
 恐怖も、悲しみも。

 身体だけじゃなく心にも刻まれた傷は、たとえ悠久の時が過ぎようとも、決して癒えることはない。

 あくまで笑顔を絶やさない及川を凝視する、カオリの眼。怯えた眼。


「……カオリ、お前やっぱり今日は帰」

「ごめんね、カオリちゃん」


 黒尾が出しかけた言葉を遮ったのは、及川の軽やかな声だった。毒気のない響き。

 カオリがきょとん、として。
 その場にいる全員が沈黙する。


「あのときは、本当にごめんなさい」


 再度謝罪した及川は、深々と、だがそれでいて嫋やかに腰を折った。

 頭を下げたのだ。
 あの、及川徹が、カオリに。


「っあ、えと、……ううん、いいの」


 呆気にとられる、ってまさにこういうことを言うのだろう。

 そんなことを考えつつ言葉を返したカオリの眼に浮かぶのは、驚きと安堵と、まだ不確かな慈しみ。

 及川の生立ちと過去についても話を聞かされていたカオリは、心のどこかでは彼を憎みきれないでいた。



「私も、……ごめんね、徹くん」
 おずおずと発したカオリのその声に。

「仲直り、だね、これからもよろしく」
 朗らかに笑んでみせて及川は返した。



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