• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)



「でも、……営業の邪魔にならない?」

 ぎゃいぎゃいといがみ合う二人。
 黒尾と木兎の間を、カオリの不安げな声がすり抜けていった。

 はた、と喧嘩が止む。

 ピンクオウルの元従業員である彼女は、当時よく腰掛けていたスタッフルームのパイプ椅子に座っていた。

 記憶の欠片が散りばめられた古巣。
 カオリと【彼ら】が出会った場所。

 最愛を失った悲しみに取り残されたままの彼女が見せる平然は、偽りと装いでしかない。それは火を見るよりも明らかだった。


「ばか、邪魔なワケねえだろ」


 優しい声音で言いながらカオリの頭を撫でた黒尾、の手を、木兎が即座に払いのける。


「それ俺のセリフな! 俺の!」


 大きすぎる低音でそう主張した彼は、カオリに宛がう部屋を「綺麗にしてくる」と言い残して店奥へ消えていった。

 薄暗い桃色の廊下。
 広い背中が、溶けていく。

 カオリと黒尾のいる待合フロアにエレベーターの駆動音が響いたのは、その直後のことだった。

 ゴウン──……
 それは、獣の唸声にも似て。

 次第に増していくボリュームにカオリが気付き、黒尾がわずかに顔を強張らせたところで駆動音は止んだ。

 少しずつ、少しずつ。
 開けていく扉の向こう。



「やっほー、久しぶり☆」



 ひらりと手を振ったのはかつての花。
 彼の後ろに見える人影は、四つ。

 懐かしい顔ぶれを従えてピンクオウルにやってきたのは、カオリに忌むべき記憶を植えつづけた不夜城の王、及川徹だった。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp