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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)






「──………カオリ?」





 ほろり、涙を零したのは黄金。

 その雫はほとんど無意識に排出されているようだった。止めどなく。言葉もなく。

 次から次へと落ちる水滴。

 まるで俺のことなんか見えてないみたいに彼は、木兎光太郎は、カオリ目掛けて一直線に歩を進めた。

 何も言わずに彼女を抱き寄せて、抱き締めて、そのまま一体どれほどの時間が過ぎただろう。




「………おかえり、カオリ」




 彼が囁いたそのひと言は吃驚するほど小さく、そして震えていた。

 光太郎は泣いていた。
 カオリも泣いていた。

 二人して、声を殺して。

 その泣き方があまりにもそっくりで、瓜二つで、儚げだったもんだから。

 なんだか、俺まで感極まって。


「ただい──………」

「ただいま、光太郎」

「っんで黒尾が言うんだよ!?」


 そこお前が出しゃばるとこじゃねえだろオッサン!とか。感動の再会が台無しじゃん黒尾ジサン最低とか。

 散々俺を野次って、罵って、終いには俺の拳骨とデコピンを食らって、ようやく二人は閉口した。


「う、ぐうう、痛ってええ」

「マジ馬鹿力、滅べ黒尾」


 否、閉口とかしてない。
 こいつら二人揃うと相変わらずクソ生意気なことしか言わねえ。


「あれな、カオリはもう一発追加な」

「は!? いやだよ絶対イヤ!」

「待て黒尾! やるなら俺をやれ!」


 木を隠すなら、森に。
 蝶を隠すなら、夜に。

 元ヘル嬢であるカオリを匿う場所として及川が指定した風俗店、ピンクオウルに懐かしい声が響き渡っていた。

 赤葦と彼女を引き合わせる計画の実行日まで、あと一週間。

 終幕へのカウントダウン。
 向かう先は、ただひとつ。

 幸せに充ち満ちたラストシーンだ。

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