第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
俺は、救いたい。
カオリを。
その心を。
彼女を守りたい一心でその身を呈した赤葦も、岩泉も、全部全部。
もう誰も苦しまなくていいように。あいつらがまた、笑って過ごせるように、平穏な日々を取り戻してやりたい。
胸が熱いんだ。
きっと、愛のせいで。
恋しいとか、愛しいとか、そういうのとは少し違くて。それは、そう。まるで家族を想うかのような。
──愛してるんだ、彼らを。
彼らに出会わせてくれた、この町を。
警官になって初めて配属された町。国随一の歓楽街。どうしようもなく爛れた肉欲の巣窟。
でも、そんな町にも、人間がいる。
薄汚れた夜の町にも、人間はいる。
生きてるんだ、皆。
身体張って、春をひさいで、心までボロボロにして、それでも生きてる。地べた這いつくばるような努力して、苦しんで、それでも歯食い縛って生きてる。
それは自分の命を繋ぐためだったり、誰かの命を支えるためだったり、夜に従事する理由は人それぞれだけど。
皆、同じ。
好きで夜やってる奴なんか、どこにもいなくて。皆何かしら傷を抱えてて、でも辛いこととか全部腹んなかに隠して、そうやって必死に生きてんだ。
それが、この町。
俺が見てきた町。
何が何でも守ってやりてえ。
絶対守ってやる、そう思う。
「──……わあ、懐かしい」
壁一面にピンクチラシが貼られたエレベーターの箱内。上昇する階数表示。
少し震えた声で言うカオリの手を強く強く握りなおして、俺は、大きく大きく息を吸った。