第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
『……っアイツを、助けて下さい』
カオリは、赤葦の苦悩に気付いてやれなかった自分を責めるあまり、摂食障害になってしまったらしかった。
赤葦本人から彼女を託されたと話す岩泉もまた、精神的に限界を迎えているように見えた。
白鳥沢の脅威から逃げる日々。
頼れる人なんて、誰もいない。
悩んで悩んで、悩んだ末、岩泉は俺に助けを請うことを決めたのだという。
それは、カオリが歩くことさえ困難になってしまったある日のことだった。
藁にも縋る思いだったのだろう。
沢山沢山、苦しんだのだろう。
クマだらけの窶れた顔で『助けて下さい……!』と叫ぶ岩泉は、涙もろくに流せないほど衰弱していて。
救ってやりたいと思った。
守ってやりたいと思った。
それが警官である自分の役割なのだと強く思ったし、今ではある種の使命感すら抱いている。
「いいか? ちっとでも辛いと思ったらすぐ言えよ。岩泉もそのうち来るっつってたから、連れて帰ってもらえ、な?」
「もー……分かったてば、しつこい」
「っ、こんのクソガキ、人の心配をしつこいとは何事だ犯すぞこの野郎」
「いだだっ、ごめん、ごめんなさいするから頬っぺたつねらないでよ巨人族」
カオリとこんな風に軽口が叩きあえるようになったのは、医者のおかげ。
仕事柄そういう相談、──犯罪被害者の心のケアに関する話を聞くことも多くて、彼女にはすぐに病院を紹介してやれた。もちろん、岩泉にも。
カウンセリングと、ミーティングへの参加。それから俺による食育指導。
まあ、要は飯食わせ係だ。
俺が助けてやれるのはそこまでだったけど、岩泉の看病の甲斐もあって、カオリは普通の生活を送れるようになるまで回復していた。
あとは、その傷の根源。
赤葦との再会を果たさせてやるだけだった。それが俺の使命。