第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
季節と共に移ろうのは景色だけじゃない。数年前に取り壊されてしまった劇場の跡地を眺めて、ぼんやりと思う。
人もまた、変わるのだ。
そこに善し悪しはあれど、皆何かしら変わっていく。移ろっていく。そうして月日は流れていく。
ただ、彼女は──
「……本当に大丈夫か?」
「ん、大丈夫、ありがと」
カオリだけは何も変わらないまま、変われないまま、ずっと。
──……京治さん、嫌っ、イヤァァ!
あの日に取り残されている。
あの日の悪夢に囚われて、蝕まれて、今でも苦しんでいる。
あの日から、彼女は笑わない。
笑うという行為そのものが分からなくなってしまったのだと、彼女はそう言っていた。悲しげに伏せられた睫毛。
救ってやりたくて。
守ってやりたくて。
「無理してんじゃねえの?」
「もう、黒尾ってば心配しすぎ」
「そりゃ心配もするだろうよ」
「……相変わらず過保護なんだから」
努めて明るく振る舞おうとするカオリの手を引いて、華やいだ夜を行く。
元来華奢な体型の彼女。
更に痩せてしまった手。
赤葦が自首して三ヶ月が過ぎた頃だっただろうか。
当時、俺が勤務していた交番に転がりこんできた岩泉の、切羽詰まった顔を思い出す。