第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
『で、進捗は?』
そんな俺の問いを聞いてか聞かずか、及川は頬をむくれさせたまま言葉を並べていった。
『大体ね、岩ちゃんは詰めが甘すぎるんだよ。カオリちゃんの隣の部屋に住んでることもバレバレだし、探偵雇わなくたって調べが付いちゃうレベル。もう全然だめ。まるでなってない』
及川が言い終えた直後に岩泉のミドルキックが炸裂したのだが、まあ、それは置いておくとして。
白鳥沢の牙城が崩落した今。
カオリの安全を確保することは、俺たちにとって最重要事項である。
かつてこの町の夜王にまで昇りつめた男、及川徹には考えがあるらしかった。
『ねえ、鉄っちゃん』
『何だよ、つーかその呼び方ヤメロ』
『こんな言葉を知ってるかい?』
『無視してんじゃねえぞコラ』
彼は告げた。
花よりも美しく、蝶よりも妖艶に微笑んで。
『木を隠すなら森に、だよ』
おまけにウインクが付いていたことで俺(と岩泉)がイラッとしたことは言、──以下省略。
こうして、俺はカオリを連れてあの場所を訪れることになったのである。
彼女の、宿り木だった場所。
カオリにとって最も思い入れが深く、そして二度と思い出したくない記憶が詰まっているであろう、夜の一番街。
そのメインストリート。
小さな雑居ビルの六階。
彼女の物語が始まった風俗店、──ファッションヘルス【pink owl】だ。