第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
chapter003
【NIGHTLY SUN:without u】
岩泉一からの着信を受けたのは、降り続いた雨が止んだ夜明けのことだった。
ようやく眠りについた町。
静けさに満ちた朝の繁華街を抜けて【Bar trust】に向かった俺が、まず、最初に見たもの。
それはカオスだった。
『あんなもん迷惑でしかねえだろ!』
『だって何かしたかったんだもん!』
『だからって週一で豆腐送るか普通! ご丁寧にオープン告知のチラシまで入れやがって! つーかどうやって俺の住所調べたんだテメエ!?』
『まあまあ、怒んなって岩泉』
『んな叫んでっと血管切れんぞー』
朝っぱらから大声で痴話喧嘩を繰り広げていた岩泉一と及川徹。
その隣でにやにやと野次を飛ばしているのは、花巻貴大と松川一静だった。
バーカウンターに置かれたショットガン対決の残骸は山のよう。それと、信じられない数の空ボトル。
アホほど飲んだらしい彼らは、しかし、まだ足りぬとばかりに真新しいグラスをその手に握っていた。
本当に、アホだと思った。
『飲み過ぎだバカホスト共!』
奴らの肝臓を心配した俺が一喝したことは言うまでもないのだが、唇を尖らせた及川が──『もうホストじゃないもーん』──と子供じみた口ごたえをしたこともまた、言うまでもない事実である。