第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
「それで?」
午前五時まであと少し。
店外に出しっぱなしにしていた看板を片付けて、俺はおもむろにそう問うた。湿度の高い空気。熱された曇天。
ドシャ降りの雨が、降っている。
「勘のいいお前なら大体分かんだろ」
岩ちゃんが返した言葉。
不安げな顔で何かを言おうとしたマッキーの背を、ばしりと叩いて松っつんが制す。
俺の反応を待っている三人。
ゆっくり、ゆっくりと、息を吸う。
「──……カオリちゃんのこと?」
その名を出した、途端。
マッキーが視線を右往左往させて狼狽え、松っつんが小さく嘆息した。張りつめた緊張の糸。岩ちゃんは俺を、じっと見据えたまま。
永遠みたいな沈黙が降りる。
誰も、何も言わなかった。言えないのだろう。無理もない。あんなことが、あったのだから。
彼らが腰掛けるバーカウンター。
そこに肩を並べて、考えを巡らせる。