第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
「ぶええ、岩ちゃああん」
「んじゃ再会を祝して乾杯!」
「あんま飲みすぎんなよお前ら」
「んな固いこと言うなって」
「本当にごめんねええ……!」
その後、しつこく謝りつづけた甲斐もあって──「うるっせえクソ川!」──岩ちゃん渾身の回し蹴りを食らった俺。
本日二回目のお星さまを見て、ついでに鼻血を出して、それも両鼻から。
鼻にティッシュを詰めていた。
ひとり寂しく、ボックス席に腰掛けて、小さく丸めた紙で止血をしていた。
そしたらね。
「もう謝んなくていい、許す」
カウンター席の方からぶっきらぼうな声だけが飛んできて、俺を許してくれたんだ。
じわり。
心臓のあたりに不思議な熱。
ほろろ、ほろろ。
溢れる涙があったかい。
温かくて、暖かいんだ。
凍ってた心が溶けていく。
「え!? あの黒尾が!?」
「おー、マル暴の課長だってよ」
「はあ、立派になったもんだ」
永久凍土を溶かしてくれた炎。
談笑のなかにいる彼は、赤。
何よりも尊い絆の証。
ありがとう、岩ちゃん。
これからもよろしくね。
喜びも憂いも希望も絶望も、ぜんぶが詰まった町。俺たちが出会って、別れ、そしてこれからも生きていくこの町の片隅で。
俺は、誓う。
もう二度と傷つけない。彼のことだけじゃなくて、誰のことも。奪って傷つけるんじゃなくて、守って愛せるひとに。
そんな人間に、なることを。
深く、深く。
この胸に誓った。