第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
「う、わー、お前また送んの?」
すべての洗い物を終えて腰掛けたカウンター席。
取り出したるは桃色の長方形。
発送伝票と書かれたそれを見て、マッキーが野次るような声を出した。
「ストーカーより怖えし性質悪いわ」
ピンクベージュの短髪ごしに顔を覗かせた松っつんは、少し呆れたようにそんなことを言う。
二人の視線が冷たい。
すごく、とても、冷たい。
ゴミでも見てるかのような蔑みを感じる。超感じる。でも俺はめげない。
「いいの! これが俺の償いなの!」
ぷくうとほっぺたを膨らませて万年筆を走らせた。
やたらと書きごこちの良いこのペンは、お店のオープン記念に二人が贈ってくれた物だ。
こじんまりとしたダイニングバー。
良くも悪くもたくさんの思い出が詰まったこの町の、端っこの、片隅。俺がもう一度人生をはじめた場所。
お気に入りのカウンターチェアに座りながら書くのは、彼の名前。
【 岩泉一 】様
俺を救ってくれたヒーローで、親友で、相棒で、最愛だった。そして俺が、最も傷つけてしまったひと。
「それ償いじゃなくてただの豆腐」
「余計嫌われても知らねえからな」
「ふーんだ、何とでも言えばいいさ。俺、全然気にしないし、余計に嫌われるってそれじゃまるで今現時点で既に嫌われてるみたいじゃんやめてとか、そんなことまったく毛程も思ってないし全然」
「……超気にしてるじゃんかよ」
「涙目だし鼻水出てんぞお前」