第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
「及川! もう一杯!」
「俺もおかわりダブルで」
「んもー、マッキーも松っつんもいい加減帰ってよ! いま何時?もう四時! 営業とっくに終わってるんだからね!」
「んだよー、ケチー」
「ケチ川だなお前マジで」
思うんだ。
灰色も悪くないのかな、って。
味気なくて、つまらなくて、どうしようもなく荒んでて。楽しいことなんか一個もない毎日。
何度も死んじゃおうって思った。
またひとりぼっちに戻るくらいなら、こんな世界捨てちゃえって。
あの日、あの廃キャバレーで、どうして俺は死ねなかったのかなって憂いたこともある。
けど、だけどね。
こんな俺にもまだ仲間と呼んでくれるひとがいるし、こんな日々にも安らげる瞬間はあるんだ。少しずつだけど、学んでる。
ひとの心、ってやつを。
最近覚えたのはネコの可愛さ。あれはやばい。陽だまりのなかで微睡んでいる姿なんてただの天使だと思う。
それにね、気づいたんだよ。
歳を重ねて、新しい夜を迎えるたび、自分自身と向き合う時間が増えて。過去を振り返れるようになって。
死は償いじゃない。
ただの自分勝手なんだ。
死んだらそこでおしまい。謝ることも、償うことも、何もできない。勝手に傷つけて、勝手に終わらせて、勝手に逃げるだなんて。それも永遠に。
そんなの、最低だと思った。
だから、生きようと思った。
生きて、償って。
俺がもっとまともな人間になったら、彼に見せても恥ずかしくない人生を歩めるようになったら、謝りに行こうって。
そう、思ったんだ。