第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
「……っカオリ、……、っ」
ほろ、ほろ、ほろ。
頬を降りていく熱。
枯れるほど泣いた筈なのに。
涙が零れて、止まらない。
下を向いて、腿に置いていた拳を握りしめて。強く噛みしめた唇が痛い。ツンと苦しくなる目元が痛い。
ずっと自分を押し殺してた。本音なんか言っちゃいけないと思ってた。
心が、痛くて痛くて堪らない。
「黒尾さん、俺、……会いたいです。あいつに、……カオリに、会いたい。会って抱きしめてやりたいです。謝りたいです。今でもお前が好きだって、……愛してるって、そう、言……、……っ」
最後の方はもう、ほとんど声にならなかった。咽ぶ音だけが漏れていた。
ぱた、ぱた、ぱた。
受刑者用のズボンに水玉の滲み。
心なしか鼻声になった黒尾さんが「クールビューティが台無しだな」と野次を飛ばしてくる。
「……それも、余計なお世話スね」
「うっせ、生意気だぞクソガキ」
腫れぼったくなった瞼を押しあげて彼を見る。視線がぶつかる。
ニッと笑んだ黒尾さんに釣られて口端を持ちあげると、頬が少し痛かった。
笑顔なんて、本当に久々だったから。