第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
黒尾さんは言う。
あの町で見たときと同じ、横柄な態度で、足を組んで、椅子に深く腰掛けて。
「本当はさ、勝手に守ったつもりになってんじゃねえ、って叱るつもりだった。あいつのこと、ドン底まで悲しませたお前が許せなかった。でもよ、さっきのお前見たら、そんな考えフッ飛んだわ」
俺は、まだ?マークを浮かべたまま。
彼の真意が分からない。
「お前があいつをどんだけ大切に想ってんのかよーく分かった。すげえ伝わってきた。だから尚更強く思う。俺は、お前をこっから出す、絶対」
「……黒尾さん、」
「んで会わせてやるよ、カオリに」
カオリ──
君の名前が部屋に響いた。
このどうしようもなく冷たい、鉛色の世界に。憂いと後悔しか存在しない絶望の日々に。
じわり
今一度の色が灯っていくような。
不思議な、気持ち。
温かい。
暖かい。
「…………カオリ」
ぽつん、と呟いてみる。
いつしか思い出すことも止めていた。
彼女の、君の、──……お前の。
何よりも愛しいその名前を。