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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)




「あいつのことなら心配すんな」


 黒尾さんに言われて、刹那。
 全身の血が熱くなった気がした。

 事実そうなのかもしれない。

 堰を切ったように溢れだす感情がコントロールできなくて、思わず眉根に皺が寄る。


「……っいい加減にしろよ、アンタ」

「あ? んだとテメエ」

「余計なお世話だ、って言ったのが聞こえなかったのか。俺が娑婆に出たら組が黙っちゃいない。それが彼女にとってどれほど危険なことか、そのくらい分かってるだろ……!?」


 次第に荒くなってしまう言葉尻。

 今にも殴りかからん勢いの俺を見て、刑務官がピリと緊張の糸を張らせている。書記が忙しくキーボードを叩く音。

 喧しい。
 うるさい。
 黙れ。

 憤りが過ぎて、視界が歪む。



「……ったく、可愛くねえガキだな」



 ふと、黒尾さんが笑んだのは何故なのか。どんなに考えても、それだけは答えが出てこなかった。

 小首を傾げて、彼の言葉を待つ。

 とくん
 とくん

 馬鹿みたいに駆けていた鼓動が、海が凪いでいくみたいに穏やかになっていく。


「いやー、焦ったぜ、聖人にでもなったつもりなのかと思ってよ」

「……聖人?」

「あいつを守るためなら自分はどうなっても構わない、ってやつ。無償の愛だとか説きだしたらどうしようかとビビってたんだが、……要らねえ心配だったな」


 彼はそこまで言って、ひとつ。
 ふうと息をついてから言葉を加えた。



「お前、ちゃんと人間じゃん」



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