第3章 はみだし者のバラッド (R18:田中龍之介)
バカ、死ね、ヤリマン女。
そんな言葉で埋めつくされた上履きは、おんぼろで、所々にカッターで切られた跡があった。
何があったのかなんて知らない。この子が誰かも知らない。汚れてしまった上履きに、薄っすらと1年生を意味するカラーラインが見えるだけ。
気が、狂いそうだった。
人間ってなぜこうなんだろう。
気に食わないことがあれば他者を貶め、蔑み、傷つける。もちろんそういう奴ばかりじゃない。それは分かっているのだけれど。
良い奴、ってのは確かに居る。
悪い奴、ってのも居てしまう。
だったら俺は──
「……良い奴でいたいよな、やっぱり」
彼女を起こさないように、そろ、とベッドを抜け出した。そのままカーテンの仕切りを越えて、養護職員用のデスクに向かう。
手にとったのはマジックペン。
彼女の上履きを汚したのと同じ色をしたそれを手に、俺は、再度カーテンの中へと戻っていった。