第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
「俺が来た意味、お前なら分かるな?」
アクリル板を挟んで、二秒。
永遠にも似た時間が流れる。
彼が、来た意味。
分かってる。分かってた。黒尾さんの姿を視界に捕らえた瞬間、理解できてしまっていた。
分からないと思っていたのは俺が考えようとしなかっただけ。そう思いたかっただけ。
導きだされる答えを知るのが、怖かったから。
黒尾さんは恐らく、交番勤務からマル暴に異動している。元暴力団構成員である俺に面会を申し込んだのだから、間違いないと思う。
そして、そんな彼が、俺と彼女が関わっていた事件を担当しているのであろう黒尾さんが、わざわざ会いに来る理由。
そんなの、ひとつしかない。
「赤葦、お前をここから──」
「出ていきませんよ、俺は」
「……人の話は最後まで聞けよ」
「余計なことしないで下さい」
ふい、と彼から視線を逸らす。
機嫌を損ねたとか、そういうことではない。見られないのだ。黒尾さんの眼が見られない。見たら気取られてしまう。
動揺に揺れる俺の、本音が、さとられてしまう。
それだけは避けなければならない。