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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)




 chapter001
  【BLACK:brave it out】



「519番、出ろ、面会だ」

 重苦しい声が聞こえた。

 何をする訳でもなく寝転んでいた。硬くて薄汚れた簡易ベッド。上体を起こして軽く、息をつく。

 鉄格子の向こうに見えたのは刑務官の制服だった。面会だなんて、一体誰が。

 そもそも、俺は──


「面会は全て断ってる筈ですが」

「無論承知の上だ。いいから出ろ」

「………?」


 訝るような視線を向けても、刑務官はむっつりと黙ったまま。問答無用で俺を面会に向かわせるつもりらしい。

 上からの命令か。
 組からの圧力か。
 いずれにせよ穏やかではない。

 それだけは、確かだ。


「ご苦労様です」

「おお、ご苦労」


 ほとんど日の当たらない廊下を歩き、看守同士が交わすうわべ面の挨拶を見やる。

 両手には手錠。
 胴体には腰紐。

 逃走防止の処置を施された状態で連れられる俺は、まるで散歩中の犬だ。なんて情けない。

 心底、自分が嫌になる。


「519番、入れ」


 面会室に着くなり、立会を務める刑務官に背を押された。

 ドンッという衝撃で前のめりになる。
 こんな扱いにも、もう慣れた。

 相変わらず鉛色で統一された部屋。明かり取りをするための窓がひとつだけ。もちろん鉄格子付き。

 中央を仕切るアクリル板だけは、無色透明だ。

 罪人と、非罪人。
 両者を隔てるそれには円形の小さな穴が開いており、互いの声が聞こえるようになっている。

 立会の刑務官と書記が背後で目を光らせるなか、温度のないパイプ椅子に腰を下ろした。

 すると、やけにゆっくりと開くドア。



「──……黒尾、さん」



 面会者用の通用口から姿を現したのは、俺と時を同じくしてあの町に身を寄せていた警官、黒尾鉄朗だった。

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