第19章 幻怪(R18:月島蛍)
え?
きょとんとしたのは、私。
影山と呼ばれた彼。
私のシャンプーを担当してくれた少年は「え」ではなく「は」と発音して、これでもかと首を傾げていた。
あの月島さんが?
わざわざ会計に?
ガラス玉のような瞳がそう問うている。訝るというよりは、純粋に驚いているといった感じだ。
「何ぼんやりしてんの」
早く行きな。
そう付け加えた月島君が指さした先。ブラックタイルが敷かれた店内の最奥で、長髪の美容師が忙殺されている。
一方ではパーマを。
一方ではカラーを。
指名被りか、はたまた人員不足か。いずれにせよ長髪の彼ひとりでは首が回らないらしい。
「誰か手貸してくれェェ……!」
「あ、サーセン、すぐ行きます」
小走りで駆けていく黒髪。
延長された、彼との時間。
否応なしに高鳴ってしまう胸を抑えつつ、私は会計レジへと歩を進めた。