第19章 幻怪(R18:月島蛍)
「山口、お会計」
「了解です月島さん!」
「日向あとよろしく」
「ッス! 了解す!」
ほら、やっぱり。
途端に冷たくなる。
会計と後片付けをアシスタントたちに任せて、自分はさっさと次の客のもとへ移動してしまうのだ。
繁盛している美容室ではよく見る光景だけれど、次から次へと客に笑顔を振りまく様は、まるでホストクラブのそれである。
「──あの、すんません」
パンッと弾かれる視線。
至近距離から降ってきた声のほうを見やると、艶々の黒髪を携えた少年と目が合った。
透明度の高い双眼が、訝しげにこちらを見下ろしている。
「寝てもらってもいいスか」
「え、っ……?」
「髪、洗いたいんで」
しまった。自分の置かれた状況をすっかり忘れていた。
瞳はおろか意識すら奪われるだなんて、年端のいかぬ少女でもあるまいに。
しかも相手は初対面の男。
更には恐らく歳下の、リップサービスが非常にお上手な美容師だ。我ながら情けない。
「っそ、そうよね、ごめんなさい」
私は羞恥で頬が熱くなるのを感じながら、謝罪もそこそこに上体を倒すのだった。