第3章 はみだし者のバラッド (R18:田中龍之介)
無我夢中だった。
救急車の3文字が頭をよぎって、スマホが電池切れなことに気付いて、おまけにここが屋上で閉め出されてるってことを思い出して。
このままじゃこの子が死んでしまうと思った。助けなきゃいけないと思った。だから。
「失礼します!!!」
彼女のうなじに左腕を、彼女の膝裏に右腕を、なるべく失礼のないように差し込んで、彼女をお姫さま抱っこした。
ガンッ、と音がして開かれるドア。
屋上と校舎をつなぐそれは、渾身の力で蹴破れば驚くほど簡単に開いてくれた。どうやら鍵がボロボロに錆びていたらしい。
フッ飛ばしたドアと、壊れた鍵。
教頭のハゲ頭と大地さんの怖ーい顔が浮かんだが、こころの中で「すんません!」と謝って屋上を後にした。
走る、走る、走る。
一刻も早く彼女に水を。
ただその一心で走った。
辿りついた先は保健室。
急いで彼女をベッドに寝かせ、シンク脇にあった桶に水を張る。水が溜まるのを待つのももどかしい。
早く。
早く。
物言わぬ蛇口に念をこめる。ガラン、とひと気のない保健室には、流れる水音と、俺の荒い呼吸だけが響いていた。