第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
俺ね、と語りだしたのは彼だった。
粛々と、延々と。
寄せては返す波。
それはまるで私たちの未来を暗示しているかのように、寄せては返し、また寄せては返すことを繰りかえしている。
「俺、ずっと絢香といたい」
彼の紡ぐ言葉が潮騒に溶けた。
溶けて、更に重ねられていく。
「一緒に生きたい、って、思うよ」
でも──
そう続けた光太郎の声。
哀しげに俯いてしまうゴールドに影が落ちて、私は、言いようのない不安に駆られる。
「でも、俺、自信ない」
彼は言った。
お前を幸せにしてやれる自信がないのだと。俺はお前といられてスゲエ幸せだけど、とも彼は言う。
絢香の人生が本当にこれでいいのか。絢香の隣で歳取ってくのが本当に俺でいいのか。
「分かんねえの、俺」
「……光太郎」
「だけどさ、これだけは分かんだ」
俺ね、と語るのはまたも彼。
粛々と、永遠に。
寄せては返す波。
私たちの未来を手繰り寄せようとして彼は、光太郎は、その永遠を。
「お前のこと愛してるよ」
大きな掌で、ちゃぷりと撫でた。
俯いていた視線。
影が落ちた黄金。
波打ち際を見つめていたはずの彼が、ふわり、私を捕らえて抱きしめる。
「絢香、愛してる」
何よりも愛おしい腕のなか。
彼の囁いた五文字に瞳を閉じて、私は、海とおなじ味がする雫をひと粒こぼした。
永遠に、永久に。
寄せては返す波。
海も、泣いている。