第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
「神社に行くの?」
「んー、今日は行かない」
じゃあ、どこに?
私がそう問うよりも早く、光太郎は鳥居に一礼だけして右折した。
明らかに道ではない道。
土産物店と小さな茶店の間にできた、細い細い路地を彼は行く。
石畳を歩いているときは気付かなかったけれど、神社のふもとは扇状に広がる住宅地らしかった。
路面店の裏側は迷路のように入り組んでおり、古めかしい木製の住居がいくつも建ち並んでいる。
「う、にゃあ」
ふと、可愛い声が聞こえた。
驚いて視線を彷徨わせ、暗がりに目を凝らすと、朝顔らしき鉢植えの陰に一匹のブサネコが座っている。
闇夜に光る黄金。
でも、光太郎とはちょっと違う。
どちらかというと彼に似てるな、なんて、今頃「あいつらどこ行った!?」と憤慨しているのであろう黒髪を思い浮かべた。
徐々にひらけていく、景色。
光太郎の銀メッシュ越しに見える夜空が、広く、大きくなっていく。
「──……わあ、すごい!」
細い細い路地を抜けた先。
眼前に広がるのは雄大な海だった。人間の痕跡がない原風景のプライベートビーチ。
国道沿いの夜景をも望める絶景に、光太郎の得意げな笑顔が添えられている。