第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
来て、こっち。
そう言って私の手を掴んだ光太郎は、この海岸地区のシンボルにもなっている小高い山を目指していた。
ぐぐと右に反れたカーブを進んでいくと、土産物屋と思しき路面店が軒を連ねはじめる。
「なにこれ、……コロッセオ?」
「殺せよ? 急にどした?」
「あ、ううん、何でもない」
古代ローマの円形闘技場にそっくりな建物は、どうやら温泉施設のようだ。
看板に大きく「日帰り入浴できます」の文字。午後十時をゆうに過ぎている今は営業時間外らしい。入館のための門が閉ざされている。
それは勿論、他の店舗もそうだった。
石畳でできた道の左右。
所狭しと並ぶお店はどれもシャッターが閉まっていて、辺りを照らすのは月明かりと、ぽつんと置かれた街灯だけ。
そんな暗がりの道をまっすぐに。
しばらく歩を進めていくと、突きあたりに石段が見えてくる。
山頂へとつづく長い石段の入口には、この先は神の領域なのだと示すための【朱】が門戸を開けて佇んでいた。