第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
「……え、っと、」
砂浜で、二人。
向きあって沈黙する私たち。
牛島さんは純粋に私の【自己紹介】を待っているらしく、ただジッとこちらを見下ろしている。
き、気まずい……!
とにかく何か言わなきゃ、えと、そうだ名前。まだ名乗ってすらいなかった。
「瀬野、です、瀬野絢香」
おずと口を開いて、彼を見る。
すると返ってきたのは「牛島だ」という短い言葉と、鍛えあげられた腕にくっついている手のひらだった。
握手、を求められているらしい。
これまたおずおずとその手を握る。
「今日はよろしく頼む」
「っは、い、私のほうこそ宜し」
「ビーはミドルネームか?」
「っへ……?」
今、この瞬間、私は悟った。
強すぎる握力に悲鳴を上げそうになりながらも、悟ったのだ。
なぜ黒尾さんが会話の途中で逃げたのかも。なぜ光太郎が牛島さんを敵視しないのかも。
「だから、ビーというのは、お前のミドルネームなのかと聞いている」
「え、いや、あの私は日本人で」
「日本人なのに瀬野・ビー・絢香という名なのか? 多重国籍ならそれも頷けるが、それにしても変わった名だな」
「……あ、はい、ソウデスネ」
黒尾さんに至ってはさっきからこっち見て笑ってるし。あの人こうなるって分かってたな。
この後、牛島さんが私のことを「ビーさん」と呼びつづけ、その由縁を知った光太郎とにろくんが爆笑したのは、言うまでもない事実である。