第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
牛島さんはともかく大きかった。
身体はもちろんだけど、存在感というか、オーラというか。ともかく全てが大きいのだ。
まるでグリズリーみたい。
そのくらい、大きい。
「黒尾、見ない顔がいるようだが」
しかしその瞳に見つめられて、思う。
クマ科の哺乳類なんかじゃない。
牛島さん、この人も、猛禽類だ。
光太郎のそれを誰よりも愛しているからこそ、分かる。彼らの瞳はよく似てる。
違うところがあるとすれば、闇夜で妖しく光るのが光太郎の黄金で、青空を引き裂いて舞うのが牛島さんの冷眼だろうか。
いずれにせよ、同じこと。
彼らは生まれながらにして捕食者なのだ。捕食対象の意識に無条件で恐怖を植えつけ、身体の自由を奪ってしまう威圧の眼、──生態系の王者の瞳。
「ああ、こいつね、臨時従業員B」
「ビー……? 変わった名だな」
「いやそうじゃなくて、……おい絢香、お前自分で自己紹介しとけ」
言いながら、そそくさと海の家のなかに引っこんでしまう黒尾さん。自己紹介しとけって、一体何を言えばよいのか。
助けを請おうと光太郎を見やる。
見やったのだけれど、彼はにろくんと「花火買いにいこうぜ!」だなんて仕事そっちのけでキャッキャしていた。
俺から離れるなって言ったくせに、牛島さんは光太郎にとって敵対生物ではないのだろうか。