第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
流れていく景色が海沿いの町並みに変わる頃。ふと窓を開けてみると、勢いよく吹き込んだのは湿度の高い風。
潮の、海の、香りがする。
「おー、早速やってんな」
「俺にろくんに会うの久々だわー」
「牛島も来るってよ、今日」
海岸線をゆるりと走りながら、黒尾さんと光太郎が言葉を交わしていた。にろくん。牛島。彼らの友人だろうか。
どこまでも続く砂浜を見やると、ある一角だけがやたらと明るく照らされているのが見える。
木材を簡単に組み上げただけの建物。その周辺にいくつかの人影。積み上げられたダンボールの向こうに広がっているのは、夜色の海だ。
「路駐でいいっしょ?」
光太郎が軽く問うて。
「夜だしいいんじゃね?」
同じ声色で黒尾さんが応じた。
砂浜へと繋がった階段の、目の前。
アメリカンダイナーを真似たのであろうレストランの近くに、私たちを乗せたサバーバンが停車する。
着いて、早速ひと言。
「絢香、俺から絶対離れんなよ」
エンジンを切りつつ光太郎が言った。
黒尾さんは「はいはいお熱いねえ」なんて言いながら、さっさと車を降りていってしまう。
運転席からひょいと降りた灰銀髪が、スライド式の後部ドアを開けてくれて。
「お前すげーかわいいからさ」
ん、と差しだされる大きな掌。
握るとすぐに引き寄せられる。
「俺ほんと心配、マジで不安」
潮風になびく前髪の隙間から、笑顔。
困ったような。
物寂しそうな。
見上げた先にある光太郎の頬には、先日ハジメに蹴られたときについた痣が、まだうっすらと残っていた。