第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
「よし、そんじゃ行くか!」
「っへ? 行くってどこへ」
「じゃあな、すがーらくん!」
「は!? ちょ、光太郎、待」
ぐいぐい強引すぎる腕。
私の肩をしっかり抱いたまま車へと向かう光太郎を、皆が見てる。
この人はいつだってそう。
クラブだって、オフィス街だって。
どこにいたって人々の視線を惹きつけて、どこだって自分の為のステージに変えてしまう。
私はそんな光太郎が好きで、大好きで大好きでたまらないのだけれど、でもやっぱり心残りなのは──
「激辛とワインがああーー!」
恋人に拉致られる午後八時。
光太郎に背を押されて、逃げようとして、捕まって、黒尾さんの手によって後部座席に引きずりこまれる。
苦笑して手を振る菅原くんが猛スピードで遠く、遠く、遠くなっていく。
「どこ行くの、何なの!?」
「海行くの! ショーナン!」
「夜なのに!?」
「夜だからこそダロ」
「はい!? や、むり、私行かな、いや嘘です、嘘ですし行きますから縛らないでください黒尾さん、黒尾さん? シートベルトの使い方間違、っあーーー!」
私の暑くて熱すぎる夏は、こうして始まったのであった。否、強制的に始めさせられたのであった。
まん丸の満月。
南空低く、輝いて。