第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
がるると牙を剥いている光太郎のほっぺたを摘まんで、私は渋面をつくった。
「こら! 光太郎!」
ピシリと叱りつけて「誰かれ構わず威嚇しない!」と言葉を加える。これじゃまるで飼主だ。
光太郎の激昂が落ちつくのを待って、開ききった瞳孔が小さくなるのを見届けて、それからようやく事情を説明する。
「あのね、彼は同僚」
「同僚? 仕事仲間?」
「そう、私のお友達」
そこまでで私が台詞を切ると、今度は菅原くんが「瀬野さんにはいつもお世話になってます」と会釈した。ちなみに朗らかな笑顔のおまけ付き。
さすがは営業部の花形社員である。
「なんだ、そっか!」
光太郎は途端に表情をパッ、と咲かせて人懐こい声を出した。
こいつは敵じゃない。
噛みつく必要もない。
彼の本能の部分がそう理解したのだろう。徐々に溶けていく双眸のゴールド。
絢香の友達なら俺の友達だな!だなんて、あっけらかんと笑ってるけど、ただのジャイアニズムだよねそれ。
お前のモノは俺のモノ!
俺のモノも、俺のモノ!
光太郎の声で脳内再生しても何の違和感もないから困る。これで音痴まで一緒だったらどうしよう。
でも、まあ、ひとまずは一件落着だ。