第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
精も根も尽きた午後八時。
ようやく仕事を終えた私は、菅原くんと共に退社用のゲートを目指していた。
交通系ICカードが社員証代わりになっているので、会社の出入口はさながら駅の改札である。
「菅原さん! お疲れス!」
「お、西谷ー、今日もカッコイイなー」
「ザス! マジ光栄っす!」
菅原くんは警備員さんと仲が良いらしく、ゲートをくぐる傍らで「西谷」と呼ばれた彼の髪型を褒めている。
ワックスバリバリ。
前髪に金メッシュ。
わお、どこかの誰かさんにそっくりだね。声も身体も態度も非常に大きい、誰かさんに。
そんなことを考えつつ、カードリーダーに定期入れをかざす。ピッと電子音。
「やだー、何あれ」
「不良? 怖ーい」
新卒の子たちだろうか。
まだほとんど皺のないリクルートスーツに身を包んだ女性社員が二人、眉をひそめて会話をしていた。
その視線が刺さる先は、外。
会社の顔ともいえる正面玄関の、ピカピカに磨かれた自動ドアの、そのまた向こう。
冬になれば一面がシャンパンゴールドに染まるオフィス街に、一台の車が停まっている。
道行く人は皆スーツ姿。
くたくたになるまで働いて(ああ、やっと帰れる)と溜息がちに歩いている人間ばかりなのに、その車は。
「絢香遅っせえなー」
「本当にここで合ってんのかよ」
「合ってる!はず! たぶん!」
この街の景色におよそ似つかわしくない、純白の、──サバーバンだ。