第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
そんなモテ男、こと、菅原くんと私は、とある共通の趣味で繋がっていた。ある意味では恋愛関係よりも強い結びつきだ。
「んで、今日はどこにする?」
「蒙古の北極、やさい増し」
「さすが瀬野は分かってる」
そう、私たちは激辛党なのだ。
あれは入社一年目のある日のこと。
昼どきの社員食堂で、カップ麺史上最強の辛さと謳われた逸品を食していた私に、彼はひどく感動したのだとか。
『俺の辛さについてこれるのはお前だけだ、瀬野!』
菅原くんの辛さとは一体何なのか。
それはちょっと定かではないのだけれど、ともかくである。私たちはあれ以来【激辛ツアー】と称して様々なお店を渡り歩いていた。
今宵は華の金曜日。
明日はお休みだから胃腸に気をつかう必要はないし、恋人に会う予定もないので存分に香辛料を楽しめる。
「ビール奢ったるよ」
「やった! でもワインがいい!」
「はいはい、それは二軒目でな」
かわいい顔して中々に男気のある菅原くんを見送って、私はパソコンに向き直った。
課長に押しつけられた名刺整理。
すごくすごく嫌だけど、ワインと激辛が待っていると思えば頑張れる。
よし、がんばろ!
心中でそう気合いを入れた私は、軽く200枚はあるであろう名刺の束に、孤軍奮闘必至の戦いを挑むのであった。