第18章 陽炎(R18:カレカノ理論III)
揺られてサマータイムブルース。
暑くて熱い、夏がきた。
照りつける太陽は眩さの昼。南空に浮かぶ満月は輝きの星。
さあ、駆けだそうよ。
暑くて熱い、夏の夜へ。
「──……っうう、寒い」
心躍らせるサマーチューンなんてどこへやら。所謂社会人であり社畜である私は、陽気でホットな夏とは無縁である。
ごうごうと冷風。
オフィスはまるで北国。
暑がりな営業マンたちは嬉々としてクーラーに当たり、その弊害に苦しむ女性社員はブランケットで身を守る。
年代物のコピー機はすぐその喉元を詰まらせるし、コピー機よりも昔からオフィスにいるお局様は怖くて仕方ないし。
ああ、社畜。
私には夏が遠すぎる。
「瀬野ー、今日定時?」
「……んな訳ないでしょうよ」
「だよな、うん、頑張んべ」
見るだけで嫌になる書類の束。
無駄に分厚い会議用資料が、ぽん、とやさしく私の頭を叩いた。
頑張んべ。
そう激励してくれたのは菅原孝支くん。東北訛りがキュートでステキな同僚だ。ちなみに超モテ男。
思い起こされるのは去年のバレンタインだが、彼はこの世のチョコというチョコに埋もれたんじゃないかというくらい、モテていた。
ほぼ男性で構成された営業部。むさ苦しい男園に咲く、雪のような白花。
彼がモテるのはもはや必然である。