第17章 代償(R18:孤爪研磨)
「っ警備員さん!」
ドアを蹴り破らん勢いで守衛室に飛びこんだのだが、しかし、そこに目当ての人物はいなかった。
代わりにあるのは【巡回中】と書かれた札。入館管理用の小窓から見えるようにして掲げられている。
思わず舌打ちをして監視モニターを見やると、入院病棟へと繋がる渡り廊下に揺らめく懐中電灯の明かりが見えた。
ふと、ある物が視界に映る。
パソコンのキーボードにレバーがついたような機械。おそらく監視カメラの操作盤だ。
カメラ切替と書かれたボタンを夢中で連打する。パッ、院内コンビニが映り、パッ、今度は駐車場。
何度かそれを繰りかえすと、いた。
緊急外来用の会計窓口の向こうに、二つの赤い影。間違いない。黒尾くんとあの少年だ。
さらに二度、三度。
ボタンを押すと彼らを正面から映したアングルに切り替わる。
(くろ、いたい?)
少年の唇の動き。
読める、分かる。
実母に虐待されていた幼少時代。
ストレス性の難聴で耳が聞こえなかったときに身につけた技術。ひとの唇の動きだけで言葉を予測する読唇術だ。
私は食い入るように画面を見つめる。
(いたくねえよ、かすりきずだし)
(あんまりしんぱいかけないで)
(はは、わりいわりい、きをつけるわ)
そう言って笑みをみせる黒尾くん。
綺麗なはずの頬を覆っているのは、傷を保護するためのガーゼで間違いない。
顔に怪我?
バレー選手なのに?
ああ、ほら、やっぱり。
私の予感は的中して──