第17章 代償(R18:孤爪研磨)
ピリリリッ!
ピリリリッ!
突如として鳴り響いた仕事用のPHS。
ネックストラップにぶらさげた小さなそれが表示しているのは、夜間緊急外来の担当医師の電話番号だ。
張り裂けそうな心臓。
監視モニターから逸らさぬ視線。
ごくりと喉を鳴らして、それから、通話ボタンを押す。
「もしもし……?」
『あ、もしもし瀬野さん、お疲れさまです秋元です。ついさっき診察した少年、ええと黒尾鉄朗くんだったかな、瀬野さんと顔見知りだって聞いたんだけど』
「え、ええ、まあ……、あの、それでどういったご用件で……?」
『ああ、そうそう。実はね、彼の診察内容を警察に報告しようと思ってるんだけど、瀬野さんなら何か事情を知ってるんじゃないかなって』
「……けい、さつ、……?」
『うん、彼の左頬なんだけど、何か鋭利なモノ、……ボーガンの矢のようなモノでついた裂傷だったんだよね』
カシャンッ
地に落ちたのは、PHS。
『あれ、瀬野さん、聞いてる?』
担当医師の声が延々と。
監視モニターには赤い影。
病院裏手の出入り口。夜闇のなかへ消えていこうとする、二人の背中。
待って、だめよ、黒尾くん、その少年と行ってはだめ。お願い。戻ってきて。
私がそう祈りをこめた、刹那だった。
ふと足を止めたのは、黒尾くんじゃない。小麦畑のようなそれがくるりと。監視カメラごしに、私を、見つめて。