第17章 代償(R18:孤爪研磨)
黒尾くん──……!
彼の身が危ない。
彼を守らなくては。
私は急ブレーキをかけて方向転換し、来た道をそのままひた走る。いけない。黒尾くんをあの少年と共に行かせてはいけない。
度重なる怪我。
今までのそれはどれもバレーによる故障だったけど、じゃあ今回は、なぜわざわざ緊急外来なんかに……?
嫌な予感しかしない。
そして、それはきっと的中している。
すべて私のせいだ。私が、あの少年に執着の機会を与えてしまったからだ。
あの少年は何度だって繰りかえす。
私に会いたい。
ただその一心で、彼を、黒尾くんを傷つける。傷つけ続ける。何度も。何度でも。サイコパス特有の犯罪心理。常人には理解できない。深い、深い、闇。
「黒尾くん、無事でいて──……!」
全力で夜の病院を駆けぬけながら、私は自身のスマートフォンを取りだした。
すぐさま黒尾くんの番号を呼びだして、彼が出てくれることを祈りながら耳に当てる。ワンコール。ツーコール。彼は出てくれない。いつまで待っても出てくれない。
「……っ、……どうして、」
私は歯噛みして踵を返した。
おかしいくらいに頭が冴える。
さっきまでの混乱が嘘みたい。
全ての明かりが消灯した小児科エリアを疾走して、突き当たりを左へ。婦人科とマンモグラフィ検査室を通りすぎれば、駐車場へつづく廊下が見えてくる。
ここから緊急外来フロアに戻るより、守衛室にいったほうが速い。守衛室には警備員もいるし、監視モニターもある。彼らが今どこにいるのかは一目瞭然だ。
だから、早く──!