第17章 代償(R18:孤爪研磨)
背筋が凍ったのかと思った。
ゾゾと痺れる頸椎。
首の後側にある皮膚がざわざわと震えて、胃が縮みあがるような。
「……え、っと、あなたは、」
「ケンマ、孤爪、研磨」
「研磨、くん、……どうして」
ほつりと明かりの灯った廊下。
第2診察室の扉から漏れる薄明りのなかに、彼は立っていた。
「……クロがね、また怪我しちゃって」
俯いてみせる仕草。
不安げに下げられた眉。
まるで、子猫のように。
幼気(いたいけ)だと思った。可愛らしいとも思った。初めて彼と会ったあの日と同じ。でも、明らかに何かが違う。
仄暗い廊下のせい?
空が赤かったから?
ううん、──そうじゃない。
「…………っ、研、磨く、ん?」
身体を締めつける圧迫感は熱。
細いのに力強い腕は、嫋やかに、しなやかに、私を捕らえて決して離そうとはしない。
抱きすくめられていた。
私が、彼に、研磨くんに。
なぜ? 分からない。
分かるはずも、ない。
「……会いたかったんだ、おれ」
香るのはりんごの匂い。
それは、いつしかの。
「あの日からずっと、会いたかった」
彼の吐息が唇にかかる。
カラコロ、ころん。
真っ赤な飴玉の、味がする。